2007年 12月 29日
靴好き |
靴が好きだ。靴が好きだが足に合う靴がなかなか見つからない。若い頃は会社通いに踵の細くて高い靴を履いていたが、今思うと良くそんなものを履けたものだとひどく感心してしまう。今の私は履き易さ、歩き易さ重視であるが、かと言って履き易くて歩き易ければ何でも良い、と言う訳でもない。つまり見掛けも多少は大切にしたい、と言う訳だ。それらを全て満足させる店がある。それは旧市街の一角の小さな店、オーダーメイドの靴屋さんだ。ある日、友人が赤い革靴をはいていた。彼はアンティーク店の主人であり、そして今はついに辞めてしまったがひと頃は演劇にも没頭していた。役者だったのである。見繕いが洒落ていて、ただポルティコの下を歩いているだけでも人がどうしても振り向いてしまう、そんな人だ。その彼がある日赤い革靴を履いていた。60年代の型、足を綺麗に包んでいる革は柔らかい上等なものだった。赤色にしても滅多に無い色合いであった。あら、素敵なのを履いている。挨拶早々靴を褒める。すると彼の叔父さんが作ったものだと言う。追求してみるとそれは私がいつの日か大金持ちになった暁には是非靴を作りたい、そう願っていたあの店であった。僕は叔父さんの靴しか履かないのさ、とっても履き心地がいいからね。そう言う彼を多分私は燃えるような嫉妬の目で睨んでいたのではないかと思う。この店を見つけたのはもう何年も前、私がボローニャ住み始めた翌日だった。san francesco 教会の横手に佇む小さくて地味な、気をつけていないと見過ごしてしまうような店だ。注文した靴の出来具合を伺いに常に誰かしらの客人が店の人と話をしている。完成までに少なくとも3度は試すのだそうだ。そして完成までに何ヶ月も掛かるらしい。値段は私の収入1ヶ月分だ。一度その靴を履くとまた次の靴を作りたくなるのだそうだ。それほど履き心地が良いらしい。ふと数年前フィレンツェの路地に店を構えていた若い日本人の靴職人のことを思い出した。細身の今どきの若者ながら話してみると芯のしっかりした靴職人であった。ひとつのことに一生懸命な人は美しい。完成間近かの靴が台の上に並べられていた。どれも美しく吟味して選んだ素材が光っていた。靴一足作って貰うのに最低でも私の収入3ヶ月分が必要で、完成までに2年掛かると言われて驚いた。それでいてちゃんと顧客がいるのだから素晴らしい。どうやら顧客は伯爵らしい。フィレンツェならではのことである。私がそんなオーダーメイドの靴を求められるはずも無い。とぼとぼと歩いては靴屋を覘き、また歩き出す。既製品でもきっと何処かにある筈。私の靴探しはまだまだ続く。
by yspringmind
| 2007-12-29 20:48
| 好きなこと・好きなもの